Story
上官と一兵卒
2016年11月、僕が年史チームに配属されて初めてのコンペプレゼンだった。我々の勝因は、競った3社の中でデザインと対応が最もよかったからだそうだ。見積金額は最も高かったがデザインが美しかったとのこと。提出のスピードが最も速く、しかも事前に自主的に工場見学でロケハンもしていたこと、それとメールの返事も最速だったそうだ。我々としては当たり前のことをしたまでだが、僕はその時思った。「そこに価値を感じていただけるからこそ、100年も続いてきたのだな」と。制作が進み、阪神エリア内に3カ所ある工場の撮影が始まった2017年10月、僕はカメラマンと一緒に工場を歩きながらいつになく興奮していた。何しろ、内航海運で日本一のシェアをもつ船舶エンジンメーカーである。興奮しないわけがない。「すげえ!かっけー!」などと小学生のようにはしゃぐ僕を見た先方の担当者さまは、すこし呆れつつも喜んでくれていたのを記憶している。
「あの(笑)、うちの工場、そんなにすごいですかね?」と。
この方は会社の長老の一人で、抜群の記憶力と洞察力を備え、なおかつ紳士としての風格を漂わせており、社員さんから好かれていた。僕もそんな人柄に惚れた一人だった。この方と僕は、打ち合わせの日はほとんど丸一日、一緒に原稿を考えたり撮影をしていた。畏れ多いことだが、この方とはもはや戦友にも近い関係だなと思った。超一流の上官としがない一兵卒だ。もちろんこれは戦争ではないけれど、そして僕が勝手に想っているだけかもしれないけれど。
ともあれ、結果的に、納品後はこの一冊が会社にとっていろいろと良いことを運んだらしい。「費用対効果がはっきりとありましたよ」と言っていただき、とても嬉しかったのを憶えている。もっとも、そもそもの発案は会社の歴史を最もよく知るこの「上官」であり、この方がいなければこんな素晴らしい体験はできなかったはずだ。納品後は、これもこの方の発案で打ち上げをしていただいて関係者全員で完成を喜び合った。こんなに幸せな仕事は、世の中にそんなにないと思う。それから数年後にもまたこの方と一緒に仕事をする機会に恵まれることになるのだが、その話は「エンジン生産120年」のStoryにて。阪神内燃機工業株式会社の公式サイトからもご覧いただけます。




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クリエイティブディレクション、プランニング、デザイン、コピーライティング、写真撮影 ほか